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日本はいい国だ。日本最高!日本は世界一!

最近よくテレビでそんな論調の番組をやっています。もちろん私は日本の国を愛する日本人ですから、悪い気はしません。

でも、それと同時に一抹の不安を感じなくもありません。と言うのも、「人間、自分で自分を褒め出したら、その人の人生は下り坂を転げ落ちている最中である」という、強い確信を私は持っているからです。

そして、これは個人に限らず、企業にも国家にも民族にも当てはまることだと思っています。

この危機感は従前から、特にグローバルに活躍している経済人なんかがよく表明している印象がありましたが、案の定ホリエモンこと堀江貴文氏も同じことをこの本で指摘しています。

君はどこにでも行ける

28カ国58都市を訪れて見聞きしたことを踏まえて、日本の特に若者に対しての熱いメッセージを発信している、最近のホリエモンらしい好著です。

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「時は金なり」の本当の意味

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日本人は、なぜかお金ばかりを惜しむ傾向がある。(中略)惜しむべきは、お金ではない、時間だ。時間は命なのだ。命に比べたら、お金なんか、いくら削ってもいいのだ。

番外的ですが、このくだりは自分には刺さりました。「時は金なり」(Time is Money.)と言いますが、この「金」というのは「きん」であって「かね」ではないのではないでしょうか。

「沈黙は金、雄弁は銀」などの、最高に価値がある、と言う意味の「金(きん)」です。

と言うのも、お金と違って時間は決して取り戻すことができないからです。

私は、20代の頃は、時間とか若さというものの価値をまったく実感できていませんでした。もっと言うと、小学生のときは「自分は死なない」と本気で思っていました。

30代に入って、肉体の衰え、そして、10代20代の頃に無邪気に想定していたほどの人間に成れていない自分の現状をいやおうなしに自覚し始めると、残された時間というもののかけがえのなさを、身に沁みて実感するようになってきました。

時は金(きん)なり。

ホリエモンから、まだ若い、でも確実に老いて行く、私たちへの貴重なメッセージです。

君がどこにでも行けるために必要な、たった1つのこと

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頭のなかの国境を消そう。そうすれば君はどこにでも行ける。

本文の一番最後の文章です。タイトルはここから取られたものと思われます。グローバル化する世界において、国境の持つ意味合いが薄らいで来ており、この流れはますます加速していく、それは日本も例外ではない、とホリエモンは見ています。

しかし、国と国の間に引かれた線を自在にまたぐことだけが、「どこにでも行ける」ということではありません。

そのような物理的・地理的な国境を自分の足や飛行機でまたぐことが本質ではないのです。と言うのも、国境というものは、実は私たちの頭の中にあるものだからです。

最近の日本人、特に若い世代は内向きになり、日本国外に足を運ぼうとしない、そして国内、もっと言えば、自分の半径数百メートル圏に安住し、そんな暮らしにそれなりに満足していると言われます。

そして、安住すると同時に、その世界から足を踏み出すことに漠然とした不安や恐怖を抱いています。

ホリエモンは彼らの抱える、そういう漠然とした不安感・恐怖心を問題視しているようです。そして、そのような不安は、すべて自分の頭の中に国境線を引いてしまっているから、そして、その線の外側を知ろうとしないから生じるものだと見ています。

そこで上の引用文のメッセージが出てきます。国境はどこにもない。それは君の頭の中だけに存在する。

その頭の中の国境を消し去ることができれば、君は自由になる。田舎の山奥に引っ込んでいたって、君の精神は世界中を駆け巡ることができる。高価な航空券や大きなスーツケースなんて、必要ない。

みんな何かにとらわれすぎていると思う。もっと本質的に、外へ出ることの意味を理解してほしい。

ホリエモンの言う本質とは、すべて私たち一人一人の心の中にあるようです。

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まとめ。ホリエモンの目に映る日本の未来とは

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ホリエモンはこの本の中で、これまで赴いた世界中のさまざまな都市の現状・印象を、豊富な体験談を交えながらスケッチしています。

アジア諸国の元気のよさに日本の過去を見、ヨーロッパ諸国の枯れた成熟ぶりに日本の未来を見ています。これらの国々の良い点・悪い点などに触れながら、日本が彼らから学ぶべきことがたくさんある、それを知るためにも日本人は「どこにでも行ける」のでなくてはならない、と主張しています。

そうやって彼らの中に入っていくと同時に、日本国内においても、どんどん外国人や外国資本を受け入れていくべきだ、と考えています。

島国にありがちな閉鎖性を打破し、国境や民族や人種にとらわれない、障害のない、風通しの良い世界を志向すべきだ、それがこれからの日本人の生きる道だ、と考えているようです。

そして、隣近所に言葉の通じない外国人が移り住んできたり、日本の技術や土地が外国資本に支配されてしまうのに恐怖感や危機感や嫌悪感を持つ風潮に、疑問を呈しています。

現状に満足している人からみれば「余計なお世話」なのでしょうが、世界中を旅して見て回ったホリエモンは、諸外国、とくに新興アジア諸国の想像を絶する豊かさや勢いに驚愕し、日本の現状や将来を憂えざるを得なかったのでしょう。

しかし同時に、日本という国や、そこに住む私たちの底力を、非常に高く評価もしています。

日本の都市部のインフラのクオリティと、成熟性は世界屈指だ。特に東京は世界一と言っていい。多くの都市を回ってきた僕が保証する。

この言葉に続けて、治安のよさ、サービスの質の高さとそのわりの安さ、民度の高さ、といった、日本の自画自賛番組でもおなじみの美点を重ねて称賛しています。

ホリエモンの論調に一貫しているのは、あくなき向上心、無限のフロンティア・スピリットです。

日本は大国です。経済も、文化も、科学も、技術も、あらゆる面で世界屈指の水準を長いこと保ち続けています。しかし、そんな時代がいつまでも続くことはなく、いずれは緩やかに衰退していく。今はその途上にあるのかもしれません。

ホリエモンは日本の未来について、その模範を成熟したヨーロッパ諸国に見ると同時に、かつての日本がそうだったように、新興アジア諸国の元気のよさも同時に取り戻していくという、非常に欲張りな展望を持っているようです。

東京の未来像は、ご飯の美味しいロンドンだ。経済力が落ちようとも、ギリシャのようにはならない。それだけの蓄財と知恵が、東京には残っている。

「日本は素晴らしい」と手放しで自画自賛するのでもなく、「日本はダメだ」とむやみに自虐するのでもない。

ホリエモンの頭のなかには国境はすでにないのでしょう。だからこそ、日本の姿をありのままに見ることができる。そこには思い上がった自画自賛もなければ、卑屈な自虐もない。

日本の現状を諸外国との比較から多面的に分析して、強みと弱みを的確に把握しています。そして、その分析に基づき、これから先、よりよい日本にしていくためのビジョンを明確に打ち立てています。

それが「頭のなかの国境を消そう」というメッセージなのだと思います。

そしてそれは、私たちが使いがちな「この国」だとか「日本」だとか言う、観念的で実体のないものに向けた他人事のようなメッセージではなく、そこに暮らす私たち一人一人に向けたメッセージなのです。

この本を読んだあなたは、そのメッセージから何を感じ取るでしょうか?

よしず後記

よしず

ホリエモンの言葉は時に辛辣で誤解を招くけれども、決して他人事のような言い方はしません。そのため、インテリ知識人や文化人にありがちな、毒にも薬にもならない独り言のような空虚さは感じません。

ただ、それゆえに、聞き流せない、無視できない引力があって、それが多くのフォロワーを引き付けると同時に、多くのアンチを生み出してしまうのだと思います。